当社グループの気候変動への対応

当社グループは、「お客様の事業活動のサステナビリティに寄与し、社会全体の価値向上を図る」というパーパスのもと、気候変動対応を重要課題の一つと位置付けています。主力事業である建物設備メンテナンスを通じて、お客様の設備の安定稼働と省エネの両立による施設運営最適化を実現させるとともに、当社グループの付加価値創出力を更に向上させるため、太陽光発電事業をはじめとした省エネ提案ツールの拡充による製造工場等へのアプローチ強化を加速させております。

 

さらに、中長期的な視点の経営を実現するため、コーポレートガバナンスを強化し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づく開示を進めることで、気候変動リスクと機会に対する透明性を確保します。これにより、投資家をはじめとするステークホルダーとの対話を深め、長期ビジョン(ありたい姿)である「サステナブルな全てのステークホルダーの幸せ向上」を達成いたします。また、気候変動への取り組みを通じて、業界リーダーとしての責任を果たしながら、企業価値の拡大を目指してまいります。

TCFD提言への対応

■ ガバナンス

 

当社グループでは、「サステナブルな全てのステークホルダーの幸せ向上」を長期ビジョンとして取締役会直下の経営会議にて気候変動対応を進めております。経営会議は原則毎月開催され、代表取締役社長、取締役及び上席執行役員を中心に構成されており、気候変動対応を含むサステナビリティに関する経営戦略の審議を担っています。また、その内容を適宜取締役会に報告しており、取締役会では経営会議で検討した気候変動に関する重要事項や対応方針の意思決定を行っております。なお、当社の気候変動課題に関する責任は代表取締役社長が担っており、サステナビリティに関する取組みを全社的に検討・推進するための枠組みを構築しております。

 

当社グループのサステナビリティ推進体制(25年4月現在)
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当社グループのサステナビリティ推進体制(25年4月現在)

■ 戦略

分析のプロセス

 

TCFD提言で示された各リスク・機会の項目を参考に、気候変動問題が当社グループの事業に及ぼすリスク・機会に関して、以下のステップで検討いたしました。

 

また、1.5℃シナリオと、4℃シナリオの二つのシナリオを用いて、政策や市場動向の移行(移行リスク・機会)に関する分析と、災害による物理的変化(物理的リスク・機会)に関する分析を実施いたしました。

 

気候変動シナリオ

 

1.5℃シナリオ(脱炭素移行シナリオ)

気候変動の影響を抑制するため、カーボンニュートラル実現を目指した取り組みが世界的に活発化しており、これにより世界の平均気温を産業革命期以前と比較して1.5℃未満に抑えることを目標としたシナリオが「1.5℃シナリオ」です。このシナリオでは、温室効果ガスの排出削減を加速させるために、より厳格な規制や炭素税の導入、排出量取引制度の強化等が世界各国で求められることが想定されています。そのため、移行リスクの中でも特に政策・法規制リスクの影響が2℃シナリオと比較して大きくなる可能性があります。また、企業に対しては、脱炭素技術や再生可能エネルギーへの迅速な移行が強く求められると同時に、これらへの対応が企業競争力や市場評価に大きな影響を与えることが予測されています。

 

4℃シナリオ(高排出シナリオ)

気候変動対策が現状から進展せず、世界の平均気温が産業革命期以前と比較して今世紀末頃に約4℃上昇するとされるシナリオです。このシナリオでは、物理的リスクとして異常気象の激甚化が顕著となり、台風や豪雨、猛暑の頻度や強度の増加が予想されます。また、海面上昇に伴い、沿岸部での浸水リスクが高まり、人々の生活基盤やインフラに甚大な影響を及ぼす可能性があります。このように、4℃シナリオは、社会・経済・自然環境にわたる広範かつ深刻な影響をもたらすと想定されています。

 

18501900年を基準とした世界の平均気温の変化

出典:IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 暫定訳(文部科学省及び気象庁)
IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 暫定訳(文部科学省及び気象庁)より、図SPM.8を転載

■ 戦略

リスク・機会のインパクト評価と対応策の選定

 

1.5℃シナリオでは脱炭素化への取り組みが進み、顧客からの再エネ関連設備導入の需要や、省エネ設備のメンテナンスや、リニューアル工事需要が増えることが想定されるため、事業機会の獲得が可能です。また、政府からの炭素税等の規制による費用負担発生が予想されるため、自社排出量の削減への取り組みが必要となります。

 

一方、4℃シナリオでは、脱炭素化の推進は限定的となり、CO2排出量増加に起因する異常気象や災害リスクが高まるため、自社外を含めたBCP対策の対応強化が必要となります。また、異常気象の増加を受けて、BCP対策の観点から建築物の空調設備のメンテナンスやリニューアル工事需要が増えることが想定されるため、4℃シナリオにおいても事業機会の獲得が可能と分析しております。

リスク ドライバー 気候変動がもたらす影響 時間軸 影響度
()内は
影響額
対応策














事業活動で排出されるCO2に対する
炭素税が導入され、コストが増加する
中~  
長期

(37.6百万円)
・太陽光発電による排出量削減の推進
・中長期のGHG削減目標の策定、
 計画的な施策の実施
・SBTへの参画予定
・省エネ・再エネ技術の適用に関する
 設備投資の積極的な実施の検討












省エネ・再エネ技術の開発や適用への
遅れによる受注機会の損失が発生、
また対応するための技術への投資コストが
増加する
中期
(6,855百万円)
・技術・研修センターを利用した
 研究開発投資による新技術開発の検討
・省エネ・再エネ技術の開発や適用に関する
 補助金や助成金の活用
・戦略的なパートナーシップの構築を検討
・省エネ・再エネ技術に特化した人材の育成







環境対応技術ニーズの高まりに対応できず、
受注機会を損失する
中~
長期

(1,396百万円)
・技術・研修センターを利用した研究開発投資
 による新技術開発の検討
・市場動向調査の実施と自社サービスへの反映
・サステナブルマーケティングや
 コミュニケーションの強化
・省エネ、運転管理等によるCO2削減提案の
 更なる強化
・他社と差別化できる技術力、専門性を
 アピールした提案の実施や営業体制の構築
 :当社の省エネ実績(※)












GHG削減対応の遅れや情報開示不足により、
投資家からの評価が低下する
短~
中期
・継続的なIR活動におけるステークホルダー
 へのサステナビリティ情報開示、対話の強化
・CDP等の外部格付け評価への対応強化
・Scope 1、2、3排出量の報告及び
 第三者検証の実施
・ISO14001の認証取得、維持
・取引先から、また取引先へのサステナブル
 ガイドライン(アンケート等)の対応依頼










GHG削減対応の遅れや情報開示不足により、
顧客からの評価が低下する
短~
中期











海水面の上昇により、事業拠点の水没リスク
対応のための移転費用が発生する
長期
(11,572百万円)
・自社のBCP策定と見直し、実行
・適切な保険への加入
・事業拠点の見直しを検討
・優先度を考慮した段階的な移転の検討











部品サプライヤーの事業活動停止等により
サプライチェーンが寸断され、メンテナンス
部品等の調達が困難になる
短~
中期

(1,775百万円)
・サプライチェーン全体の見直しと多様化
 (ローカルサプライヤーの活用等)
・サプライチェーンに対するBCPの改善、
 実行の検討
・防災意識を向上させるための教育を
 定期的に実施
防災設備の拡充が必要となり、災害予防対応
コストが増加する
中~
長期
・費用対効果の高い防災設備の導入や
 更新を検討
・長期的な設備計画の策定
・自社のBCP策定、見直しと実行

機会 ドライバー 気候変動がもたらす影響 時間軸 影響度
()内は
影響額
対応策






















再エネに関する設備等への需要が増加し、
受注機会が増加する
短~
中期

(7,445百万円)
・設備メーカーとの継続的な
パートナーシップ強化
・製品・サービスラインナップの拡充
・安定的サプライチェーンの構築
・再エネ関連技術の強化と専門性の確立
・専門人材の確保を促進

















異常気象の増加を受けて、BCP対策の観点
から建築物の空調設備のメンテナンスや
リニューアル工事需要が高まる
長期 ・設備メーカーとの継続的な
パートナーシップ強化
・製品・サービスラインナップの拡充
・安定的サプライチェーンの構築
・顧客のBCP対策に関する要望への対応
・BCPに関連する設備のメンテナンス
サービスを提供中














省エネ規制等の強化により、その基準を
達成するための設備のメンテナンスや
リニューアル工事需要が高まる
中期 ・製品・サービスラインナップの拡充
・規制動向調査の実施と自社サービスへの反映
・省エネ、運転管理等によるCO2削減提案の
更なる工夫
・省エネに特化した社内研修プログラムの実施
 (2024年度は2回実施済み)
・包括的なエネルギー管理サービスの提供














循環型経済の進展により、建て替え等が
減少し、設備のメンテナンスやリニュー
アル工事需要が増加する
中~
長期
・顧客とのコミュニケーション強化により
メンテナンス、リニューアル工事の
最適提案を実施
・技術力向上に向けたプログラムの実施






平均気温上昇に伴う空調設備のメンテナンス
やリニューアル工事市場の需要が増加する
短~
中期
・設備メーカーとの継続的な
パートナーシップ強化
・製品・サービスラインナップの拡充
・安定的サプライチェーンの構築
・高効率空調機の導入提案の検討
・客先へ予防保全の徹底を推進




















CO2排出削減や省エネ・環境負荷低減への
取り組みの進展により、ステークホルダー
からの評価が向上する
短~
中期
・技術・研修センターを利用した
研究開発投資による新技術開発の検討
・省エネ等、温暖化対策を含む環境活動に
かかる設備投資の検討
・省エネ、運転管理等によるCO2削減提案の
更なる強化:当社の省エネ実績(※)
・環境教育・啓発活動の推進
・省エネ・環境負荷低減技術の積極的な
導入検討
  • 時間軸…【短期:~2027年】、【中期:~2030年】、【長期:~2050年】
  • 影響度…大:会社存続を脅かす損害、主力事業に大きな影響を与える事項(売上の10%以上の影響)】、【中:主力事業にある程度影響を与える事項(売上の5%~10%程度の影響)】、【小:相対的に影響の小さい事項(売上の5%未満の影響)】
  • 使用シナリオ…【1.5℃シナリオ:IEA WEO2023 Net Zero Emissions by 2050 等】、4℃シナリオ:IPCC AR6 SSP5-8.5シナリオ 等】

■ リスク管理

 

当社グループでは、各部門/グループ会社より報告された気候関連リスクを毎月開催される経営会議にて識別し、取締役会にて最終評価を実施しております。リスクの評価に関しては、影響度と発生頻度を評価観点として対処すべきリスクの優先順位を決定しております。識別・評価された気候関連リスクは、経営会議にてリスク軽減・移転制御のための対応施策を決定し、各部門/グループ会社における施策の実施状況をモニタリングしております。

 

経営会議にて全社リスクと気候関連リスクを統合し、取締役会に報告することで、統合的なリスク管理体制を構築しています。

 

 

 

指標と目標

 

当社グループでは、気候関連課題が経営に与える影響を評価・管理するため、GHGプロトコルに基づきGHG排出量を算定しています。直近の算定結果では、当社の自社排出量(Scope1およびScope2)は1,246 t-CO2、バリューチェーン全体の排出量(Scope3)は1,036,427 t-CO2でした。なお、Scope3の排出量のうち約78%は、当社が販売・設置した空調機器の使用時に発生する電力由来の排出が占めています。

 

当社グループは、温室効果ガス排出量削減に向けて、2030年度までにScope1およびScope2について2023年度比42%以上の削減達成を目指しています。この目標は、気温上昇を1.5℃以下に抑えるためのシナリオに整合しています。また、Scope3については、2023年度比25%以上の削減を目指しており、この目標は2℃を十分に下回るシナリオに整合しています。

 

さらに、お客様の事業活動のサステナビリティ向上を支援するため、当社はお客様の事業活動における温室効果ガス排出量を年間10,000 t-CO2以上削減することを目標に掲げています。直近では11,519 t-CO2の削減を実現しており、これは約82万本の杉が1年間に吸収する二酸化炭素量に相当します。

 

また、当社グループでは、フロン類の適切な管理にも力を入れています。2023年度には、CO2排出量換算で105,859 t-CO2に相当する53,185kgのフロンを回収しました。

 

今後は、これらの算定結果を活用し、国内外のサプライチェーン全体で削減施策を検討・実行してまいります。当社は、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指し、気候変動対応への取り組みを一層推進してまいります。

指標と目標

当社グループにおける温室効果ガス排出量実績(Scope1,2)

(単位:t-CO2

2023

(基準年)

2030年

(目標年)

Scope1(直接排出)

58.6

Scope2(間接排出)

1,188

Scope1,2合計

1,246.6

723(▲42%

  • 財務支配基準の連結アプローチを採用しています。
  • オペレーティングリースにおける車両のガソリン由来の排出量は、Scope3カテゴリ-8にて計算しています。
  • Scope2の排出量は、主に事業所で使用される電力に由来しており、マーケット基準に基づいて算定した結果を使用しています。

当社グループにおける温室効果ガス排出量実績(Scope3)

(単位:t-CO2

Scope3カテゴリー

2023年度実績

カテゴリー:購入した製品・サービス

164,29615.9%

カテゴリー資本財

55,483(5.35%

カテゴリー燃料及びエネルギー関連活動

190(0.02%

カテゴリー輸送、配送(上流)

870.01%

カテゴリー:事業から出る廃棄物

1,1750.11%

カテゴリー:従業員の出張

324(0.03%

カテゴリー:従業員の通勤

714(0.07%

カテゴリー:リース(上流)

2,0360.20%

カテゴリー11:販売した製品の使用

811,094(78.3%

カテゴリー12:販売した製品の廃棄

1,0290.10%

Scope3合計

1,036,427100%

  • サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(環境省・経済産業省)に基づき算定しています。
  • サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver3.4)(環境省)を使用しています。

 

 

また、その他の気候変動指標として、お客様の事業活動における温室効果ガス排出量の削減やフロン回収量も考慮しており、2023年度の実績と今後の目標は次のとおりです。

その他気候変動指標

2023年度実績

目標

お客様の事業活動における温室効果ガス排出量の削減量

11,519 t-CO2

年間10,000 t-CO2以上の削減

フロン回収量

53,185 kg