日本空調サービス
代表取締役社長
依藤 敏明氏
建物設備の総合メンテナンス事業を提供する日本空調サービス。3期連続で最高売上高を更新する勢いを支えているのが、人財を大切にする社風が育む技術力だ。同社の人的資本経営が「2024中期5ヵ年経営計画(以下、2024中計)」でどのように位置付けられ、具体的にどのような施策を実施しているのか、代表取締役社長の依藤敏明氏に聞いた。
人的資本をベースに据えた
新たな中期5ヵ年経営計画
日本空調サービスが2024年6月に策定・公表した「2024中計」には、財務・非財務の両面から今後5年間でどのような方向を目指すのかが示されている。さらに、ビジョンとして掲げる「サステナブルなすべてのステークホルダーの幸せ向上」の達成状況を測るKPIとして8つのバリュー項目が設定された。①社員エンゲージメントスコア※1、②コア技術力指数※2、③特殊な環境を有する施設※3の売上高比率、④温室効果ガス排出量の削減、⑤海外事業の拡大、⑥期間平均営業利益率、⑦期間平均ROE、⑧株主への還元だ。これらにそれぞれ数値目標が設定されており、非財務の取り組みから財務的成果を経て最終的に株主配当へ到達するストーリーになっているのが分かる。
「『2024中計』の目標を達成するために最重要視しているのが人的資本経営です。最初に社員エンゲージメントスコアやコア技術力指数を配置しているのも、人的資本がすべてのベースになるという考えの表れです」(依藤氏)
設備メンテナンスを含む建設業で、就労者数の減少と高齢化は深刻な課題だ。とくに高齢化が進む中で技術継承の面でも影響が出ている。
「産業全体で見るとロボットの導入などが進んでいますが、当社の事業は取引先に出向く必要があるため、『人財』こそが源泉です。持続的な成長のためには、人の確保や定着率のアップといった課題をクリアする必要があります」(依藤氏)
※1 従来の満足度(仕事内容や組織、待遇にどの程度満足しているか)に対し、エンゲージメント(組織や仕事に対し貢献意識を持ち、主体的に参加しているか)の計測を目的としたKPI
※2 従来の技術力指数(技術系公的資格取得数×資格点数÷技術系従業員数)から、より本業の成長と相関が高いと考えられる公的資格にて再構築したKPI
※3 病院及び研究施設、製造工場等、その他の特殊な施設
社員エンゲージメントスコア
70pt以上維持をKPIに設定
日本空調サービスでは、人的資本経営の一環として、毎年50人程度の規模で従業員を増やしていく方針だというが、同時に入社した人財の流出を防ぐ取り組みも重視している。
「当社はもともと風通しの良い社風です。現場での作業が遅い時間までかかると上司が手伝いに来てくれることも多く、同業他社から驚かれたことが何度もあります。福利厚生を充実させるのはもちろんですが、近年では心理的安全性が話題になっているように、人を大切にする良い伝統を生かすことが定着率の向上にもつながると考えています」(依藤氏)
従業員の満足度をKPIとして測るために今期から新設したのが、先に挙げた社員エンゲージメントスコアだ。
「従来の満足度調査では、仕事のやりがいや人間関係において高い数値が出ていましたが、処遇面がやや低い数値でした。そこで2年続けて正社員の給与水準の引き上げ(2023年4月:平均6.8%、2024年4月:平均6.5%)を実施しました」(依藤氏)
社員エンゲージメントスコアは従来の満足度調査とは同一の設問形式ではないというが、今後は70pt以上の維持をKPIに設定し、定着率アップにつながる施策を進めていく考えだ。
人的資本経営の実現のため、まずは採用強化と社員エンゲージメント向上を図ることで定着率を高め、今後に向けては技術力を中心とした育成で財務的な成果へとつなげる戦略を描いている
総合研修施設を新設し
人的資本の価値向上を図る
従業員の満足度や定着率向上に加えて必須なのが技術面での育成だ。日本空調サービスの売上高の7割以上を占めるのが、病院や工場といったシビアな管理が求められる特殊な環境を有する施設の設備。こうした施設の安定稼働を支える高い技術力がビジネス上の優位性になっていることを考えれば、企業価値を高いレベルで維持するには技術力を磨くことが重要であることは言うまでもない。
「人を確保して技術力を維持していけば、今後も持続的な成長が見込めます。これまでも自社保有の研修施設を活用して育成には力を入れてきましたが、人的資本のさらなる価値向上を目的に、2025年4月からの本格稼働に向けて総合研修施設『技術・研修センター(以下、同センター)』を整備中です」(依藤氏)
同センターは、病院や工場、クリーンルームといった実際のメンテナンス現場を再現した設備を備えるほか、環境分析や設備能力診断といった付加価値を生む研修も行う。既存従業員の総合的なスキルアップを図る戦略拠点となるだけでなく、採用面での効果も見込めると依藤氏は期待を寄せる。
「技術系の会社に入社される方にとって、研修や育成のレベルは重要な検討項目になるはずです。当社では現場に出る前に同センターで一通りしっかりと基礎研修を実施しますので、企業選びの際にも安心感につながるのではないかと考えています」(依藤氏)
人的資本の価値向上を加速する目的で名古屋市内に新設される「技術・研修センター」。メンテナンス現場を実体験できる設備を備え、2025年4月からの本格稼働を予定している ※完成予想図
「2024中計」の土台となる人財の定着率アップや技術力向上について見てきたが、株主や投資家だけでなく従業員のための施策にも力を入れていることから、その本気度がうかがえる。
「『2024中計』は社外だけに向けたものではありません。策定・公表した2024年6月以降、エンゲージメントの重要性について積極的に社内にもメッセージを発信しています」(依藤氏)
働き方改革で労働環境が改善し、従業員の満足度が高まる一方で、労働時間の減少は売上高への影響も考えられる。今後、そのあたりをどう考えるのかについても聞くと、以下のような回答で締めくくってくれた。
「売上高の維持については、DXによる業務効率化で生産性を上げていけば対処可能です。当社には現場が好きという社員が多く、お客様に褒めていただくことにやりがいを感じるという声をよく聞きます。こうした社員の思いを大事にすることで、社員エンゲージメントスコアや技術力をしっかり利益に結びつけ、すべてのステークホルダーの幸せにつながるような経営を進めていきたいと思います」(依藤氏)

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